THE JAPAN TIMES シックハウス症候群が学校を襲う
シックハウス症候群が学校を襲う 目に見えない恐怖が児童の健康を脅かす
THE JAPAN TIMES SATURDAY, JANUARY4, 2003 By ERIKO ARITA SICK BUILDING SYNDROM HITS SCHOOLS Invisible menace threatens kids’ health
目には見えない化学物質が全国各地で児童の健康を脅かしている。
昨年7月、東京の西部郊外、調布市にある調和小学校で、シックハウス症候群であるといわれる病気の症状を引き起こす化学物質が検出された。新学期が始まる9月、8人の生徒が体の不調を訴えた。7月から11月の間に行われた測定で、こうした化学物質の濃度は安全なレベルにまで減少していったが、教師や親たちはいまだに不安を隠せないでいる。
これはシックハウス症候群に結びつく問題を経験している全国の数多くの学校の1例であり、シックハウス症候群は、建築材料から放出される揮発性有機化合物への曝露によって誘発されると考えられている。症状には、頭痛や呼吸器症状、痒み、皮膚の炎症、目の刺激などがあげられる。家やマンションを建てるために使用される新しい建築材料から放出する化学物質によって引き起こされる問題は、近年とても深刻な問題となっている。
調和小学校の校長である山崎敏雄氏によると、病気になった8人の生徒の親たちは、子供に頭痛、アトピー性皮膚炎、目の充血や吐き気などの症状が出たと語ったと言う。8人の生徒のうち、3人の生徒は近隣の学校に転校し、他の3人は一時的に他の学校に移り、残りの2人は自宅に待機している。
環境調査を専門とする企業が学校で行ったテストによると、7月に3クラスで、揮発性有機物質ホルムアルデヒドが高濃度で検出された。その濃度は、文部科学省が設定した許容限度を超えるものであった。別の有機化合物であるトルエンの濃度は、全16クラスで限界値である0.07ppmを超えた。また、トルエン濃度が限界値の38倍もある教室もあった。9月に行われた調査では、全教室のトルエン濃度は限界値以下に下がったが、10月には再び1つの教室で限界値を超えた。11月下旬、学校は簡易測定装置を使用してさらにテストを行い、問題の教室におけるトルエン濃度は最終的に文部省の限界値にまで減少した、と地元の教育委員会は語った。
調布市教育委員会の細川一二氏は、学校の建築に携わった建築会社は、ホルムアルデヒドをあまりふくまないベニヤ板や、トルエンの少ないエマルジョン塗料を使用するなど、有害な揮発性化合物を含む材料を極力使用しないように努めたと説明する。
生徒達が不調を訴えた後、学校と教育委員会は、大阪を拠点とするNPO「シックハウスを考える会」からアドバイスを受けた。これまで調布市内の他の学校でシックハウス症候群の問題が起きたことはなく、地元の医師はその病気を診断し治療した経験がほとんどなかったからだ。「シックハウス症候群の診断に関する全国基準が確立されていないので、その病気を診断できないと学校保健会から言われました」と細川氏は語った。
調和小学校に通う生徒全員が10月に健康診断を受けた。この診断は5人の校医と上記NPOに属する1人の皮膚科医により行われた。結果はその団体によって評価され、学校は今月の上旬にその結果を報告されることになっている。
学校のPTA会長である丸田絵美さんは、この問題が起こる前までシックハウス症候群についてほとんど知らなかったという。「どの化学物質がどんな種類の病気を引き起こすのか見えないので、親としてはどうするのが一番良いのかを知りたいと思っています。」と語った。PTAでは、建築材料から放出される化学物質を吸収すると言われている植物を購入した。
「シックハウスを考える会」の会長である上原裕之氏は、こうしたケースが相次いで起こる前に、いろいろな学校で起きている問題が明るみに出るべきであったと語った。問題解決のため、調布市の教育委員会や学校が大阪の団体と協力している一方で、多くの学校や教育委員会はこの問題を深刻に受け止めていないか、または地方自治体が建築会社と深い関係にあるために沈黙を守っていると上原氏は訴えた。「学校と教育委員会は子供たちを守らなければならないのに、彼らは自分の利益のために子供の健康を犠牲にしている。」と彼は語り、教育機関や医療機関は、これらの化学物質が引き起こす危険性についてもっと学習しなければならないと付け加えた。
2月に文部省が設定した揮発性有機化合物ガイドラインでは、学校は少なくとも1年に1度、教室における4種類の揮発性有機化合物の濃度レベルを測定することが期待される。もしこれらの濃度が文部省の限界値を超えた場合には、学校は化学物質を放出する材料を特定し、濃度を減少するための措置を取ることが要求される。7月に政府は、全国の学校の化学物質放出を調査し、問題を提起する委員会を設置した。
大阪の団体の副代表である皮膚科医の笹川征雄氏は、揮発性有機化合物が皮膚や目、鼻、口、喉の粘膜を刺激し、また頭痛や疲労の原因となると説明し、ホルムアルデヒドには強力な刺激性があり、国際癌研究機構により発癌性物質の可能性があるとして分類されているとも語った。10月に調和小学校で児童を診察した笹川氏は、何人かの生徒がアトピー性皮膚炎であることを発見したが、アトピー性皮膚炎と化学物質との明確な関係を明らかにすることはできなかった。なぜなら、学校の建築材料から放出された物質は、すでに政府の基準値を下回っていたからである。笹川氏は、気温が上昇する夏はホルムアルデヒド濃度が上昇することがあるので、学校側は継続的に状況観察を行う必要があると語った。
早稲田大学の建築学の教授であり、政府のシックハウス症候群に関する諮問委員会のメンバーである田辺新一氏は、この問題は揮発性有機化合物を含むビルに使用される接着剤や合成物質により引き起こされると説明。過去20年から30年にかけて、熟練した職人の数が減少し、ビル建築にかかる日数を短縮することが望まれるようになるとともに、こうした物質の使用頻度が増えたと語った。また彼は、シックハウス症候群が起こるもうひとつの要因として、近年建築されたビルや住宅で見られる気密性を挙げた。こうしたビルは昔の木造建築と比べてエネルギー効率は良いが、自然換気に頼ることはほとんどなく、所有物などから放出される化学物質が室内に蓄積されていると彼は説明し、学校におけるシックハウス症候群を解決するために、建築会社はホルムアルデヒドの含有量の少ないベニヤ板やファイバーボードを使用し、水性の接着剤を使うようにするべきであると語った。
一方で笹川氏は、この問題を解決するためには、政府と建築に携わる企業の協力が必要不可欠であると述べ、「シックハウス症候群の症状を治療するために、化学物質を放出している材料を見つけ出し、その材料を取り除く必要があります。しかし、我々医者にはそこまで力が及びません」と語った。